コラム5 ファンへの感謝の気持ちが強いのはなぜか?

コラム

 

5.ファンへの感謝の気持ちが強いのはなぜか。

理由は大きく二つにまとめられるのではないでしょうか。

一つ目は精神的につらい時に支えてくれたくれたのは、ファンの存在であったと感じているからでしょう。ライブの場でじかにファンからの自分への暖かい気持ちや支えを感じることができたと様々なコメントの中で安室ちゃんは繰り返し感謝を込めて述べています。

例えば前出[7]NHK「告白」でも放映されましたが、産休からの復帰後の1998年末のNHK紅白歌合戦でのステージでの映像が強い印象で物語っています。ステージ登板前の不安と緊張で立ちすくむ安室ちゃんの姿と、観客の暖かい拍手の中で涙を見せる安室ちゃんの姿。前述の「2.「どうみんなにみられているのかな?」」でも触れましたが、芸能界に「戻ってきてもいいんだ」と伝えたのはファン(というより国民?)でした。もう一つ、安室ちゃんの次のコメントがあります。「自分が実際にすごく傷ついて、精神的に悲しかった時に、その時のツアーで初日ステージに立ったときに、ファンの皆さんの暖かさがブワッと一気に来る瞬間があって、私はSNSとか自分のことばを発信することがないので、何も言わない私に対して、」(前掲[7]NHK「告白」より)。時期としては「すごく傷ついて、精神的に悲しかった時」を母の不遇の死と解釈すれば、1999年(平成11年)8月の「Final Summer Dream Stage」のあたりでしょうか。結婚し出産した「アイドル」を、しかも産休復帰までも受け入れる時代となりました。ほんの10年前であれば暖かく迎えられることなど困難だったかも知れません。その時代の変化がなければ、その考えを受け入れてくれる世代の存在がなければ、自分は生き残れなかったかもしれないと安室ちゃんは切実に思っているのでしょう。

↑産休復帰直後の1998年末の紅白歌合戦にて、観客の暖かい拍手につつまれて涙を見せる安室ちゃん。(NHK総合 安室奈美恵「告白」 2017年11月23日放映画面より)

二つ目は、SUITE CHICプロジェクトへの参加を経て「新しい安室奈美恵」をスタートさせて以降、ファンが安室ちゃんの作品の完成度を高めてくれた。それでもって今の自分がある。輝いて生きてこれたという実感からではないでしょうか。

安室ちゃんのプロデュースの手法は小室哲哉さんのそれに似ている部分があるように思います。NHK平成史スクープドキュメントによれば、小室さんがモデルとした英国のチームは、開発したダンスリズムをディスコで観客の反応を見ながら反映・開発していったとあります。安室ちゃんはライブでのファンの反応で表現方法を工夫し、完成度を高めていきます。別コラムでも引用しましたが、次のコメントのとおりファンとの対話が大変重要であったことを安室ちゃんは言っています。「その反応を見た時、私は「私がやりたい音楽を貫くんじゃなくて、ファンの方が求めていることに応えたい」と思った。我を貫くこともできたかもしれないけど、みんなの期待に応えることが、その時の私の中でベストだと思ったんです。あの選択があったからこそ、今の安室奈美恵がある。」(前掲[14])そしてファンとの対話で感じた「強い安室奈美恵、かっこいい安室奈美恵」へ「音楽の力で(中略)自分を持って行く、というのをやっていくようになったら、スムーズに”好き”と”結果”のバランスがとれはじめたんです。」(前掲[15]

SUITE CHIC後にトライした「新しい安室奈美恵」。「新しい安室奈美恵」を「強い安室奈美恵」というイメージで表現すれば、”好き”と”結果”のバランスがスムースにとれることをファンの反応で気づかせてもらった。誰にも相談できなかった(答えが得られなかった)ことの答えをファンが教えてくれた。このことが無ければ、今の私は無い。真剣に反応してくれるファンがいたから、生きてこられた。コメントはそう物語っています。

 

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